ニュージーランドのEMS

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Photo: ST JOHN NZ

ブログ第一弾はやはりニュージーランドのEMSを紹介します。

ニュージーランドの救急は消防ではなく、大半は私も所属するSt John Ambulanceというクリスチャン系のチャリティー団体が救急業務を国から請け負う形で担っています。残りの一部、北島の南部もWellington Free Ambulanceという、これもチャリティー団体が運営していて、国が直接警察や消防と同レベルで関与しない救急システムに対する議論は定期的に行われています。実際には、間接的に多くのコスト(訳70%)が税金によって賄われていますが、寄付に頼る割合も多く、よってハード(機材など)とソフト(トレーニングなど)の両面で劣る面も多々有ります。とはいえ、歴史のあるチャリティー団体が運営する救急隊に対する国民の信頼度は非常に高く、消防に並び最も信頼出来る職業という投票結果があります。St Johnは世界中で救急をミッションのひとつとして行ってきましたが、その殆どが現在では国が公務として引き継ぐ中、ニュージーランドやオーストラリアの一部に残るチャリティー団体による救急システムはいつまで生き残れるのでしょうか?

運営方法はさておき、資格制度は現在大きな改革が進んでいて、早ければ今年中にも歴史に残る変化を遂げる予定です。何が歴史的かというと、現在のパラメディック資格は正確には国家資格ではなく、今のニュージーランドの法の下では、なろうと思えば誰でも自称「パラメディック」になりえるのです。この法的な位置付けはオーストラリアも同様で、一足先に法改正が行われたイギリスに習い、パラメディックの資格を国家登録制(Registration)にする改革がオーストラリア、ニュージーランド両国で進められています。

第三者の中立的組織が資格管理をする国家登録制度の導入が国民の安全を守るために必須であることは明らかですが、既に現在Rapid Sequence Intubation(迅速導入挿管)など高リスクな医療行為が国家資格の無いパラメディックに認められている事実に驚かれる方も少なくありません。それを可能にしているのは厳しい審査基準や高度なトレーニングだけではなく、医療事故に対する民事訴訟が起こせない、無過失国家保険制度が大きな背景にあります。医師も含め、ニュージーランドにおける医療事故は国家保険制度によって補われ、基本的に民事訴訟を起こすことは出来ないのです。業務上過失致死、性的暴行などはもちろん刑法上罰せられます。

国家的資格の発足より一足先に、全国的なガイドラインは数年前に導入済みで、ニュージーランド全国どこでも同じガイドラインのもとに医療行為が行われています。

そんな中、現在は運営組織内で発行、管理されている資格には4段階あります。

  1. First Responder
  2. Emergency Medical Technician (EMT)
  3. Paramedic (PARA)
  4. Intensive Care Paramedic (ICP) + RSI 特定行為

現時点ではEMTまでは運営組織内のコースで取得することが可能で、これは地方の救急隊の大半がボランティアのため、それに対応出来るシステムとなっています。

Paramedicになるためには3年間のコースを受けBachelor or Health Scienceを取得、就職決定後、雇用組織のインターンパラメディックとしてのトレーニング、そして試験を経てパラメディックとして活動することが可能となります。

Intensive Care Paramedicになるためには、上記の資格に加え、Postgraduate Certificateという、大学院資格が必要となり、その資格習得後はまた組織内のインターンシッププログラムに選ばれる必要があり、そのプログラム終了後、審査を経て晴れてICPとして活動することが出来ます。
ICPは出動量の面からだけ考えても主要都市でしか養成出来ないため、そのプログラムに選ばれるには実力だけではなく、都市部に住むことと、そして多少の運も必要となります。
上記のICPになるための大学院資格に加え、別のPostgraduate Certificate in Resuscitation という1年のコースを受け、さらに選ばれたICPにRSI(迅速導入気道挿管)の資格が与えられ、現在私の活動するクライストチャーチには約150人いる救急隊員の中で、ICPは約16人、RSIの特定行為資格を持っているのはそのうち5人程度となっています。多くの国がRSIは救急または麻酔医のみ(多くは麻酔医のみ)の医療行為に限定するなか、ニュージーランドのシステムが成功するには少人数のICPに集中的に高度なトレーニングをする必要があるからです。

現在、パラメディックやICPの学位、大学院資格を取るには一つの大学(AUT)、そして一つの専門学校(Whitirea Polytechnic)がコースを提供しています。RSIのための大学院コースはAUTのみで勉強することが出来ます。あるいは、オーストラリアやイギリスの大学の学位も有効で、組織内の審査に受かればオーストラリアやイギリスのパラメディックはニュージーランドでの活動が比較的簡単に出来ます。アメリカのパラメディック資格は州によっても違うので、ニュージーランド資格への移行には時間がかかるようです。日本の資格は残念ながらこちらの資格への移行は不可能となっています。
ニュージーランドはイギリス連邦以外の国に閉鎖的なのか、医師免許の移行も難しいと最近出会った日本の医師がおっしゃっていました。

次回はこの大学のコースについてもう少し詳しく紹介します。

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